僕は統合失調症

30歳の時に発症した統合失調症の発病・入院・回復の記憶

求めない 加島祥造

求めない―
すると
簡素な暮らしになる


求めない―
すると
いまじゅうぶんに持っていると気づく


求めない―
すると
いま持っているものが
いきいきとしてくる


求めない―
すると
それでも案外
生きてゆけると知る

英文学者であった加島祥造は、英訳された「老子」に出会い、それを元に自由な口語で訳された日本語で、詩のように老子の言葉を伝えてくれるタオイストになった。

「タオ―ヒア・ナウ」や「タオ―老子」などの著作がある。

その加島が、自分自身の内側から湧き出してきた言葉を書き連ねた詩が「求めない」という本になった。「求めない―」という書き出しではじまるいくつもの章句が連なる、小さくシンプルでいて深い本だ。


老子の「足ルヲ知ルコトハ富ナリ」という思想をベースにした加島の言葉は、今の僕の生き方には切実に響いてくる。欲望を持ちはじめたら、不足だらけの人生。それでも、急性期の底知れない不安、入院中の先の見えない苦しみから回復に向かい、日々の生活の中に小さな喜びは見出せる現在。


信州の伊那谷に隠棲し80代の余生を過ごす加島祥造と同じ境地にはもちろんなれないけれど、彼は決して煩悩を捨て超俗的に生きろといっているのではない。

五欲を去れだの煩悩を捨てろだのと
あんなこと
嘘っぱちだ、誰にもできないことだ。


「自分全体」の求めることは
とても大切だ。ところが、
「頭」だけで求めると、求めすぎる。
「体」が求めることを「頭」は押しのけて
別のものを求めるんだ。
しまいに余計なものまで求めるんだ。

世間体や、常識、人並みの幸せなどというものも、僕は「頭」が求めさせる価値なのだと思う。統合失調症という病とつき合いながら、幸せを感じて生きていける方法。「求めない」という1冊の本は、僕にその何らかの方向を示してくれた。

『求めない』 加島祥造

『求めない』 加島祥造

タオ―老子 (ちくま文庫)

タオ―老子 (ちくま文庫)

タオ―ヒア・ナウ

タオ―ヒア・ナウ