僕は統合失調症

30歳の時に発症した統合失調症の発病・入院・回復の記憶

ヒポクラテスたち 大森一樹

この映画は昔から好きな作品なのだが、自分が統合失調症を経験することによって、そのテーマをより深く感じられるようになった。京都にある医科大学の最終学年の1年間にスポットを当てて、医師を目指す若者たちの姿を丁寧に、みずみずしく描いている。

古尾谷雅人を主人公に、実習を受ける同級生とのエピソードを縦軸に、癖のある寮の先輩後輩との生活を横軸に、巧みなシナリオ展開で物語は進んでいく。

内藤剛志斉藤洋介阿藤快小倉一郎柄本明など、いまやメジャーになった個性派バイプレーヤーたちの若き日の姿が見られるのも楽しい。指導教官として、手塚治虫北山修も登場する遊び心のあるキャスティング鈴木清順も顔を出す。同級生を演じる伊藤蘭が、知的でクールではかなげでとても印象的。


普段お世話になっている主治医のK先生にもこんな青春があったのかなあと思わせるのは、さすがに自身が医学部出身の監督、大森一樹ならでは。大森一樹はその後凡庸な職業監督になってしまったけれど、「ヒポクラテスたち」は、彼が自らの体験を生かして一生に一本撮ることのできた傑作だ。


冒頭、セシュエーの「分裂病の少女の手記」を主人公が読むところからはじまるこの映画。重大なネタバレを承知で書くのだが、主人公は卒業を間近にして精神病を発病し、自身の大学病院の精神科に入院する。そして精神科医になった小倉一郎の最初の患者になる。映画の中で病名は明らかにされないが、統合失調症を思わせる症状。恋人を深く傷つけ失恋したことがきっかけとなっての発病だ。

僕自身、統合失調症を経験する以前は、この結末にちょっと唐突で強引な印象を持っていたのだが、今観るとそんなこともありえるなと素直に感じられる。

主人公を演じた古尾谷雅人は、後年自殺した。うつ病などが原因といわれる。精神を病む役柄でメジャーデビューした若い俳優が、俳優人生の末に精神を病んで自殺したというのは、何とも悲しい人生の皮肉を感じる。


若い人には古臭いところもあるかもしれないが(学生運動のエピソードなど)、この映画で描かれる青春のとりかえしのつかない切なさは、いつ観ても深く心に沁みる。

ヒポクラテスたち [DVD]

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分裂病の少女の手記―心理療法による分裂病の回復過程

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