僕は統合失調症

30歳の時に発症した統合失調症の発病・入院・回復の記憶

2007-01-01から1年間の記事一覧

求めない 加島祥造

求めない― すると 簡素な暮らしになる 求めない― すると いまじゅうぶんに持っていると気づく 求めない― すると いま持っているものが いきいきとしてくる 求めない― すると それでも案外 生きてゆけると知る 英文学者であった加島祥造は、英訳された「老子…

ヒポクラテスたち 大森一樹

この映画は昔から好きな作品なのだが、自分が統合失調症を経験することによって、そのテーマをより深く感じられるようになった。京都にある医科大学の最終学年の1年間にスポットを当てて、医師を目指す若者たちの姿を丁寧に、みずみずしく描いている。古尾谷…

よっしーさんに会った

ブログを通して知り合ったよっしーさんに初めてお会いした。東北に住む彼とは、会えるのはまだ先のことと思っていたが、彼が転勤で関東に引っ越してきて、思いのほか早く会う機会が得られた。東京都現代美術館で待ち合わせ。一緒に岡本太郎の大壁画「明日の…

恋の終わり②

電話をすると、香織は学校を終え家に帰っていた。 「どうしたの」 「今、東京にいるんだけど、これからちょっと行ってもいい?」 「うん、いいよ」 突然の電話にもかかわらず、香織は訳も聞かず承知してくれた。文子の住む街からしばらく車を走らせ、香織の…

恋の終わり①

秋になり、回復は順調で、ひとりで外出することも増えた。文子と香織に手紙を書いたりもした。文子にはもちろん病気になったことは明かさなかった。ふたりとも返事はくれなかった。 僕の家には、文子の荷物がまだ残っていた。彼女が卒業旅行でヨーロッパへ行…

denさんに会った

新緑の京都へ、2泊3日の小旅行をした。友人夫婦と一緒だったのだが、昼間は僕はひとりで仏像や庭園を見てまわり、夜は居酒屋で合流。その日にあったことなどを語り合う。みうらじゅんといとうせいこうの「見仏記」のように、僕は仏像オタクなのです。京都で…

作業療法士の憂鬱

退院後だいぶたって、H先生からデイケアに出てみてはどうかと話しがあった。「若い女の子もたくさんいますよ」 とりあえず、診察日の午後だけ、僕はデイケアに顔を出すようになった。 現在ではT病院にはデイケア専用の大きな施設があるが、当時は開放病棟の…

バンド仲間との別れ

母が入院していたときのことだが、ベーシストのN君から久しぶりに連絡があった。調子が大丈夫なら、バンドの練習に復帰しないかという誘いだった。僕とテナーの広川君がフロントのフリー・ジャズ・バンドは休止していたが、クマ君がボーカルのロックバンドは…

母の発病

2月の退院からふた月ほどがたった頃、母の様子がおかしくなった。はじめは、夕食の献立が思いつかないと気にしだし、やがて不眠がはじまった。4月9日の僕の診察のとき、母もH先生の初診を受けた。軽い睡眠薬などを処方してもらったのだが、母の調子は日に日…

香織との別れ②

香織は自分と渡辺君の浮気が僕を追い詰めて、発病させたのだと責任を感じ、ずっと悩んでいたのだ。それでも僕を支えるため入院中も面会に来てくれたのだろう。 「わたし、本当はまた渡辺君と会ってるの。・・・ごめんなさい」 僕には、あまりショックはなか…

香織との別れ①

香織とは電話では度々話したが、なかなか会う約束ができなかった。会っても彼女のアパートに泊めてもらうことはなくなった。 5月になり、僕の31歳の誕生日がやってきた。その日はちょうど土曜日の診察の日で、いつものように短い問診が終わり薬を受け取ると…

気楽な精神科医

退院後は、引き続きH先生の診療で、2週間に1回、T病院の外来に通いはじめた。はじめしばらくは親と同伴で診察を受けた。 「変わりはないですか」 「はい」 「夜は眠れますか」 「薬を飲んでもなかなか寝付けないのですが」 「部屋を暗くして15分もすれば寝ら…

サックスを吹いた

昨日、横浜の某所でフリー・ジャズのセッションがあった。学生時代よく一緒に演奏していたドラマーのおさむ君に、横浜を拠点に活動しているそのグループに誘われたのがきっかけ。今までに何回かセッションに参加したのだが、昨日はおさむ君の子ども2人も飛び…

文子の言葉

朝6時半起床の病院から解放され、僕は毎日昼近くまで眠るようになった。とにかく眠くて起きられなかった。昼間も何もすることなくごろごろ。夜はなかなか寝付かれず夜更かしをした。そんな生活が長く続いた。病者への温かく真摯なまなざしを持つ精神科医、中…

掲示板を設置しました。

「統合失調症(分裂病)当事者の日記」のよっしーさんの提案で、統合失調症について語り合う掲示板をシェアすることになりました。僕のブログのコメント欄では書き込みにくいようなご意見も、是非書き込んでみてください。「僕は統合失調症」は僕個人の過去…

草間彌生のカボチャ

先週、高校時代からの友人と2人で、瀬戸内海に浮かぶ香川県の直島を旅した。ベネッセの運営する美術館とホテルのある島で、アートマニアにとっては憧れの島。安藤忠雄設計の魅力的な美術館・ホテル、島の集落の中の空き家・廃屋を再生した空間で現代アートの…

発病年齢のちがい

退院してから何年ものちのことだが、ある統合失調症の当事者の講演を聞きに行った。当事者の交流グループも主宰され、精力的に活動している方だ。僕よりも若い。高校生のときに発病、回復後コンビニのアルバイトを長く続け、現在は障害年金を受け、講演会・…

入院編を終えて

書き進めながら、いろいろなことを思い出した入院編。ほとんどの人とはそのとき限りの出会いでしたが、今は皆さんどうしておられるのでしょうか。嫌でたまらなかった入院生活も、今になって考えると、自分にとって何か得るものもあったのかなあと思います。…

念願の退院

文恵さんは、僕より少し年上で、背が低く髪が短く、文子に少し雰囲気が似ていた。大部屋ではなく2人用の個室に入院していて、あまり部屋からは出てこなかった。僕は昼間部屋に行き、よく話をするようになった。若いときからの入院生活のためか、浮世ばなれし…

芝居の稽古

看護婦の磯山さんに1月のある日、「Sさん、お芝居にでてくれない?」といわれた。2月に市内の精神病院が合同で開催する芸術祭があり、T病院では出し物に演劇を企画しているというのだ。「それまでは退院できないんだなあ」とがっかりしたが、とりあえず台本…

外出の自由

病棟では、手工芸・書道・絵画などの時間があり、暇なときには参加した。作業療法士や外部からのボランティアの講師などが指導してくれた。 単独外出の自由が許可されてからは、昼食の後、よくひとりで外出するようになった。ナースステーションに置かれたノ…

柴さんの闘病日記

開放病棟では、患者のリハビリのためという名目で、トイレ・風呂・冷蔵庫などを当番制で掃除させられた。いつでもお湯が使える給湯器の水の補給も当番の仕事だった。このお湯でほとんどの患者は1日に何杯もコーヒーを飲む。インスタントコーヒーは、煙草と並…

アカシジアとオナニー

外泊で家に帰ったとき、そわそわと落ち着かず、じっとしていられない状態におちいった。ベッドの上で激しく足を痙攣させて苦しみは続いた。抗精神病薬の副作用のアカシジアという症状であることをのちに知ったが、主治医からそのような副作用の説明を受けて…

患者同士のつき合い

僕には、精神障害の当事者で、友人と呼べるような関係の人がいない。病院のデイケアに少し通ったこともあるが、どうも雰囲気になじめず知り合いは出来なかった。作業所や家族会の活動などに参加したこともない。 ひとりで美術館へ行ったり、映画を見るのが趣…

手洗いがやめられない

単独外出の許可が出る前から、毎朝のように散歩に誘ってくれたのが小倉さんだ。頭を丸刈りにした人のいいおじさんで、病室が一緒だったわけでもないのだが、よく話をした。 6時半に起床して、ラジオ体操・朝食の後、病院の近くの住宅街を散歩した。寒い冬の…

的場さんの閉鎖病棟落ち

忘年会だったか新年会だったか忘れたのだが、病棟で病室ごとに余興を行うという宴会が行われた。僕たちの病室では、僕がサックスを吹けるということで、リーダー格の的場さんが演歌を歌い、サックスとコーラスで「内山田洋とクールファイブ」風の出し物をや…

はじめての外泊

開放病棟の入院患者は、正月になるとほとんど実家に帰り外泊する。長期入院している離島の出身の斉木さんも、親族が迎えに来ていた。僕もクリスマスの外出に問題がなかったということで、正月には家に帰って外泊する許可が出た。大晦日の午後、親が迎えにき…

あけましておめでとうございます

昨年夏からはじめたこのブログも、新年まで続けてくることが出来ました。記憶が曖昧になってしまわないうちに、発病の頃の体験を形に残しておきたいと思いはじめたブログですが、予想を超えるたくさんの方にご覧いただき、感謝するとともに、いささか驚いて…