僕は統合失調症

30歳の時に発症した統合失調症の発病・入院・回復の記憶

意外な言葉

「ちょっと外で話さない?」
いつものように部屋で食事したあと文子は言った。近所に最近できたバーに出かけることにした。テーブルをはさんで正面に向かい合って腰かけ、カクテルを注文した。しばらくして、思いつめたように文子が言った。

「わたしたち、しばらく会うのをやめてみない・・・」

僕には何のことだかわからずあっけにとられた。何でだと聞いても、彼女はそれ以上説明しようとしない。

「すこし、君と離れてみたいだけなの」
「小僧の部屋に来るのもダメなの?」
「・・・うん・・・」

何か一時的な気まぐれなのだろう。仕事で疲れているのかもしれないな。自分にそう言い聞かせ、平静を装ったが僕は大きく動揺していた。けんからしいけんかもしたことがないふたりなのに。

それからしばらく僕は彼女のところに行くのを控えた。自分の部屋で一人で過ごす夜はむなしかった。もういい頃だろうと思い、2週間ほどして彼女の部屋に出かけた。文子は留守だったので、夕食の支度をして待つことにした。陽気のいい初夏の日だったので、ビールを買ってきて、小さなバルコニーにホットプレートを出して焼肉をすることにした。肉や野菜を切って、いろいろタレを作っているところに文子が帰ってきた。

「何で来たの」
「もういいだろ。夜景でも見て焼肉たべようよ。おなかすいてるんだろ」

風に吹かれて、ふたりで食事をした。文子はあまり口をきかず、それでもむしゃむしゃと食べた。ソファでいつものようにゴロゴロしている僕に「今日は帰って」と彼女は言った。帰る帰らないでもめたすえ、すねた僕は、「台所で寝るからいいだろ」と強引に布団を敷き泊まっていった。

そんなことが続いたある日、ぼくがなぜ会うのが嫌なんだと問い詰めると、文子はポツリと言った。


「恋をしたんだ・・・君のことが嫌いになったんじゃない」