僕は統合失調症

30歳の時に発症した統合失調症の発病・入院・回復の記憶

文子との再会③

香織に会って、文子と再会したことを伝えた。
「明日、わたしも連れてって。わたしも小僧に会う」
香織の意志は固かった。僕は文子とふたりでもう一度会うつもりだったが、いっそのこと香織と村山君も交えて4人で食事をしよう。ふたりで会ったら僕はまた泣いてしまうことだろう。翌日文子に電話してそのことを伝えた。


「みんなで一緒に釜山苑に行こうよ。村山君も来てくれるかな」
「うん、彼、君が来てる間、うちの近くに車で来て待ってるっていってたから誘ってみる」


焼肉屋のテーブルを4人で囲んだ。僕と香織、文子と村山君が隣り合わせて座った。
「今度のことはもともとわたしのわがままが原因で、みんなに迷惑をかけてごめんなさい」
文子は努めて明るくあいさつした。ビールを飲んで、タン塩、豚足、カルビ、サンチュ。文子と通った釜山苑の味は変わることなく、懐かしかった。


「よく、ここで焼肉食べたよな」
「うん、君が夜遅く小田原から着いて、一緒に来たね」


酔いがまわると、文子はいつものように陽気にしゃべった。香織と村山君は言葉少なに、僕と文子の会話を聞いていた。これでよかったのだと思った。またふたりきりで会って気づまりになるより、こうして文子の笑顔を最後に見ることができて。僕たちのお気に入りだった冷麺とユッケジャンクッパを食べて店を出た。


「最後に小僧の部屋ちょっと見せてよ」
「うん、いいよ」


大きなダイニングテーブル。結婚してからも使おうと買ったものだった。身体を寄せ合って眠ったソファ・ベッドもそのままにある。この部屋に来ることはもうないのだな。香織と村山君がいなければ、僕は泣いていたにちがいない。

駅に行き、僕と香織は下りの小田急線に乗った。文子との別れ際、僕は彼女に写真の束を渡した。僕が持っていた文子が写っている写真を全部持ってきたのだ。


「小僧とずっと過ごせて楽しいことがたくさんあったよ。写真ぐらい持っててよ」
「うん。ありがとう」


文子と僕は握手して別れた。僕たちの乗った電車を見送る文子は、村山君としっかり手を握り合っていた。
「小僧は、Sさんにも村山さんにも想われていい気分だったよね」
香織は帰りの電車の中で、少し機嫌悪そうにぽつりともらした。

その夜は香織のアパートに泊まった。翌日目覚めると、僕の心はどんよりと重苦しかった。
「今日は会社休むよ。香織が連絡受けたことにしといてくれる?」
香織が会社に出かけたあと、ひとり布団の中で横になっていると、文子と別れたのだという悲しみが重くのしかかってきた。本当に全て終わったのだ。僕はいつまでも激しく嗚咽し続けた。

泣き疲れて、香織のことを思った。彼女の存在がなければ僕はとっくに悲しみに押しつぶされていたにちがいない。彼女には本当にひどい、自分勝手なことをしてしまったが、これからはふたりで新しい人生をやり直そうと思った。