僕は統合失調症

30歳の時に発症した統合失調症の発病・入院・回復の記憶

煙草を吸う女の子

精神障害者の喫煙率は、健常者に比べ高いようだ。入院中も煙草が欠かせない患者が多かったし、特に女性の喫煙者の多さが目立った。外来で通院するようになってからも待合室は煙草が蔓延し、喫煙室が作られ分煙になったのはようやく最近のことだ。


僕と同世代のたか子さんも、そんなヘビースモーカーのひとりだった。僕は煙草を吸わないのでわからないのだが、喫煙は抗精神病薬の作用でぼんやりした気分を覚醒させる効果があるのだろうか?たか子さんは、髪が長く、長身ですらりとした女の子だった。T病院に入院する前にも、いくつもの病院で入退院を繰り返し、日本各地を転々としているのだといっていた。当時はある男性と同棲していたのだが、調子を悪くして開放病棟に入院したそうだ。

彼女の煙草に辟易して、「たか子さんが煙草吸ってないときだけ、話し相手になるよ」と話すと、「S君って面白いこと考えるね」と、僕に話しかけるときには煙草をやめてくれるようになった。「退院したら、わたしたち結婚するつもりなんだ」と彼女はいつも言っていた。主治医に、子供を作って妊娠中に抗精神病薬を服用しても大丈夫なのか質問したという。服薬はやはり胎児に影響する可能性があるようで、子供を産むとなると、再発のリスクをかかえて薬を減らしたりしなければならないようだ。特に妊娠初期には注意が必要らしい。彼女は僕より先に退院するとき、「よかったら電話して」と同棲している家の電話番号を教えてくれたが、結局僕は電話することはなかった。


僕自身は、昨年胆石の手術をしたのだが、普段通っていた病院では手術を断られた。手術の際に短期間断薬をしなければならないのだが、その病院には精神科がなく、万が一精神病の症状が悪化した時に対応ができないので、精神障害者の手術は断っているというのだ。結局、精神科のある大学附属の総合病院を受診して、胆嚢の摘出手術をしてもらった。内視鏡を使った簡単な手術だった。時々不眠症や耳鳴りに悩むくらいで、普段は精神病であることを大して意識しないのだが、こんな時には自分が精神障害者なのだという事実に直面させられる。

手術を断られた病院では、普段内科に通院していて胆石が見つかった。手術の相談のため外科の窓口に行き問診表を提出した時、診察室の中から医師らしき2人が話している声が聞こえてきた。


「この患者、統合失調症だってさ。分裂病じゃないか」
「困ったねえ」と2人が苦笑しているのがわかった。


医師であっても、精神障害に対してそのような差別的な意識しか持っていないのだ。外科の医師は、「当病院では、精神に障害のある方の手術はお断りしておりますので、どこか精神科のある病院を当たってみてください」と事務的に話した。紹介状をお書きしましょうかと聞かれたが、こんな病院に紹介状代を払うのも嫌なので断った。

精神に障害を持っていると、身体の病気の時にも余計な心配をしなければならないのだということがわかる経験だった。


※現在ではT病院も待合室では完全に喫煙できなくなって、屋外に喫煙所が設けられている。