僕は統合失調症

30歳の時に発症した統合失調症の発病・入院・回復の記憶

発病年齢のちがい

退院してから何年ものちのことだが、ある統合失調症の当事者の講演を聞きに行った。当事者の交流グループも主宰され、精力的に活動している方だ。僕よりも若い。高校生のときに発病、回復後コンビニのアルバイトを長く続け、現在は障害年金を受け、講演会・当事者会などの活動に忙しい日々だという。当時、週3回の塾講師のアルバイトをしていた僕は、彼のような生き方もありなんだなあと、目からうろこが落ちるような思いがした。障害を持つことをカミングアウトし、自由に生きる彼を見て、社会に復帰して、働くことだけが障害者の回復ではないのだと、気づかされた。彼の講演は話術も巧みで、楽しい内容だったが、ひとつだけ僕が反発を感じた発言がある。


「私は高校生のとき、何のきっかけも思い当たらないのに突然発病しました。わけのわからない若い時の発病ですから、失うものが何もなかったというのは、不幸中の幸いだったと思います。当事者の集まりでも、社会に出てから発病された方は、学歴が無駄になったり、職業を失ったりして、人生に失望されている方が多いですね。そういう方に比べると、私の方が気楽で楽天的に生きていけます」


そのような趣旨の彼の発言を聞いて、僕は「それはちがう」と思った。僕は確かに人生で多くのものを失った。受験勉強の苦労も、会社で努力した日々も、淡い恋や、深く愛した2人の女性も、司法書士への夢も、みな消えていった。でも自分の人生を考えるとき、そうした「失うもののある人生」の方がやはり豊かで幸せなのだと思った。これからの人生は別の生き方を求めて、のんびりやっていけばいいのだ。


発病年齢は、統合失調症の人とうつ病の人では違いがある。思春期の発病が多く30代くらいまでに発病する統合失調症に対し、うつ病の発病は中年期がピークだという。ライフサイクルからも、病気自体の症状からも、うつ病の人はより人生への喪失感に苦しまれるのだろうと思う。先日、長くうつ病に苦しまれている同世代の男性からコメントをいただいた。僕にはその方の悩みに対しアドバイスする力はない。でも、統合失調症者としてはおそい発病だった僕が確かに感じるのは「失うもののある人生」の方が幸せなんではないかなということだ。


若くして統合失調症を発病しながら、現在バリバリ働いて、熱のこもったブログを発信されている方もいる。「統合失調症(分裂病)当事者の日記」のよっしーさんだ。彼には僕などとは全く違う人生観があるに違いない。


発病年齢の違い、疾患の違いで精神障害者の生き方も人それぞれだと思う。今の僕に言えるのは「失うもののある人生」を過去にもち、それでもなお新しい幸せな生き方をしていくことは可能だし、それが障害の受容ではないかということだ。喜びも苦しみもあっての豊かな人生。


そんな今の僕の心境に至る心の変化を、回復編では伝えてみたい。