僕は統合失調症

30歳の時に発症した統合失調症の発病・入院・回復の記憶

文子のことを、僕は「小僧」というニックネームで呼んでいた。

彼女は大学のジャズ研の後輩。僕はアルトサックス、彼女はピアノを弾いた。2学年下で一緒にバンドを組んだことは無い。おとなしいが芯の強そうな、髪が短く背の低い女の子だった。美人とはいわないが、愛らしく親しみのわく顔立ちをしていた。

ライブの打ち上げのとき、マイナーな映画の話などしたのがきっかけで電話番号を教えてもらい、しばらくしてから、招待券を手に入れたコンサートに誘ったのが最初のデート。神奈川県立音楽堂の、一柳彗。現代音楽のコンサートだった。つきあい出してから聞いたのだが、電話で誘われた時どの先輩だかよくわからず、とりあえず来てくれたのだという。

文子は、はじめの頃は無口で、気の小さい女の子のように感じたのだが、親しくなるにつれ生意気で明るい魅力を見せはじめた。お酒が好きで、酔うとますます陽気さを発揮する。やっぱり九州の女らしい。背が小さくボーイッシュで、内弁慶なところのある彼女を僕は「小僧」と呼ぶようになった。

長崎出身で、一人暮らししていた彼女のアパートに通うようになったのは、つきあいはじめて数ヵ月後の夏のはじめのことだった。