僕は統合失調症

30歳の時に発症した統合失調症の発病・入院・回復の記憶

人生の終わり

自分が正気を失っていると自覚した後も幻聴はおさまらなかった。みんなにテレパシーの能力があるという考えは否定できたが、自分の家系には特別にテレパシーの能力が備わっているのだと考えるようになった。母が若いとき精神病だったのだという妄想もその頃抱きはじめた。


ふたたびNクリニックで診察を受けた。うつむいて椅子に座ると、デスクの向こうのN医師の声で幻聴が聴こえてきた。「相手の足を見るというのは、軽蔑していることを象徴しているんだ。君は私を馬鹿にしているな」僕は一言もしゃべることができなかった。N医師は、症状が悪いので精神科に入院したほうがよいと親に紹介状を書いて渡した。自分がついに精神病院に入院するのだとわかり、人生の終わりを告げられたような気がした。不完全ながらも自分自身が精神を病んでいるという病識があった僕は、自分で入院を受け入れ、紹介を受けた私立のT病院で担当医師と面談した。

年配の院長が同席して、僕の主治医になるH先生が簡単な問診をした。H先生は東大出身の、僕と同世代の神経質そうな感じの男性だった。僕は一応病識があるということで、最初から開放病棟に任意入院することになった。


香織が僕の家にはじめてやってきたのが11月3日。激しい幻聴が聴こえたライブの日が11月9日。T病院に入院したのが11月17日のことだった。僕の急性期は短く急激なものだったが、精神は著しく消耗していた。

僕は自分が精神病院に一度入院すれば、生涯外に出ることはできないのかもしれないと思っていた。だがこれ以上家にいて家族に迷惑をかけることはできない。あきらめて入院するしかないと決意した。


そうして精神病院での入院生活がはじまった。