2006-01-01から1年間の記事一覧
精神障害を扱った映画は意識的に見るようにしている。この映画は交通事故により80分しか記憶が維持できなくなった、記憶障害*1の数学者の物語。心の障害というよりは脳の機能障害だが障害者ではある。ノーベル賞を受賞した統合失調症の数学者ジョン・ナッシ…
香織は文子とは対照的な女性だった。文子よりひとつ年上。短大卒で会社では僕の先輩だった。営業から総務に移って机をならべるようになり親しくなった。文子とつき合っていた頃にも、ふたりで小田原城の夜桜を見にいったり、ジャズ・バーで飲んだりする友達…
香織さんのことこの前の手紙には書かなかったのだけれど、10月8日の岩沢くんのバンドのライブには、香織さん・美恵子さん・前に総務にいた環さんという子も来てくれました。実はこのライブの時、ホーンは女装をしてくれという指定があり、前日の夜僕は香織さ…
小僧、元気にしていますか。僕は今月はいろいろなことがありました。10月1日 「気流の鳴る音」の文庫版(筑摩)を買う。最後の「交響するコミューン」を再読した。5日 新大久保の楽器屋にサックスを取りに行く。調整をしてもらったのだ。マウスピース(梅…
会社と自分のアパートを往復するだけの単調な生活が始まった。東京に遊びに出ることもなかった。僕は落ち込んだ気持ちを忘れようと、仕事に打ち込むようになった。たまっていた書類を片付け、デスク周りを整理し、仕事を効率化する新しい書式をワープロで次…
文子は平日は帰りが遅くなり、休日も出かけることが多くなった。僕はひとりでライブを見たり、映画を見に行き、夜遅くに彼女の部屋に泊まるだけになった。文子が恋をしはじめてから、一緒に寝ていても彼女は身体を許さなくなっていた。僕は性欲を処理するた…
彼女が恋した相手は、出向先の会社のさらに下請けをやっている小さなプログラマーの会社の社長だった。30歳くらいで、妻子があるが別居中。社員は、男性プログラマーひとりと、女性事務員ひとりのいわゆるベンチャー会社。文子は出向先の会社に出入りする彼…
「ちょっと外で話さない?」 いつものように部屋で食事したあと文子は言った。近所に最近できたバーに出かけることにした。テーブルをはさんで正面に向かい合って腰かけ、カクテルを注文した。しばらくして、思いつめたように文子が言った。「わたしたち、し…
僕たちに訪れた破局について語る前に、もう少し文子との思い出を書こう。僕は彼女を「小僧」と呼んでいたが、忌野清志郎が好きな彼女は自分のことを「おいら」と言っていた。大阪時代、新幹線で同僚たちと出張に出かけるとき、よく3人がけシートにごろりと横…
文子が東京に戻ってきて最初のゴールデンウィークは、久しぶりに東京でゆっくりデートした。彼女の新居のためにあちこちテーブルを探し、恵比寿のインテリア・ショップで、シンプルで明るい色の木のダイニングテーブルを見つけた。結婚してからも使えるよう…
文子は大阪に行った。僕が新幹線で行ったとき少しでも早く会えるようにと、新大阪駅のちかくにワンルームマンションを借りた。それまで風呂無しのアパートに住んでいた彼女は、部屋で一緒にお風呂に入れることをとても喜んでいた。僕は休日前になると、仕事…
文子にも学生時代の終わりがやってきた。彼女は大手コンピューター会社に無事内定。卒業旅行で友人と2人、ヨーロッパへ1ヶ月近い自由旅行に出かけた。旅先からは、せっせと絵葉書を送ってくれた。 「オルセー美術館に行って直に見ると印象派ってとてもよかっ…
ある大手メーカーに就職した僕の配属先は小田原だった。小田急沿線に住む文子とは、電車1本だがかなりの距離がある。僕は会社が独身社員寮として借り上げたアパートに入居したが、休日は毎週のように、仕事が早く終わった日にはその足で彼女のアパートに向か…
文子も僕も、異性の身体に触れるのは初めて同士だった。お互いふたりの関係に夢中になり、しばしば彼女のアパートで一緒に過ごすようになった。僕は自宅から大学に通っていたが、家を空けることが多くなった。彼女は風呂無しの古い木造アパートでつつましく…
彼女は大学のジャズ研の後輩。僕はアルトサックス、彼女はピアノを弾いた。2学年下で一緒にバンドを組んだことは無い。おとなしいが芯の強そうな、髪が短く背の低い女の子だった。美人とはいわないが、愛らしく親しみのわく顔立ちをしていた。ライブの打ち…
大学時代の終わりから5年ほどつきあっていた女の子がいる。彼女は長崎の出身だった。彼女のことに触れなければ、僕の病気のことは語れない。このブログでは、そんな昔の想い出から、統合失調症とつきあい始めた頃のこと、精神病院に入院した時の体験、その後…